季節によって早朝のランニングコースを変えるようになった。
いつもは人通りや車を避けた場所を選んでいるが、夏のこの時期だけは違う。
向かう方向は、普段は車でもめったに走ることがない旧道沿いの集落だ。
そこには古くからの農家が立ち並んでいる。
杉や欅の木に囲まれた大きな屋敷に、入母屋造りの家、米蔵、納屋がある家が多い。
それぞれの手入れの行きとどいた畑には、ナスやトマトなどの季節物が生り、ひまわりしか名前が分からないが
赤や黄色の鮮やかな花がみごとに咲いている所もある。
地面が蒸上がってくるような空気に農機具小屋に染み付いたオイルの匂いが入り混じったような独特の匂いが、どこか懐かしい。
育った場所ではないのに、自分の中で少年時代の記憶や感覚が鮮明によみがえるような錯覚が好きでその周辺を走るようになった。
ある日のこと、そこを通過しようしたとき田んぼ越のはるか向こう側にカラフルな新興住宅地が目に入ってきた。
新しい場所があるから古い場所が懐かしく感じるのだろうかと思いつつも、家を造る自分たちの仕事が街並みを造っているという責任をあらためて感じた。
家は街並みを造り、街並みは地域の美しさを造る。
地域の美しさが「懐かしさ」という決して形には現れないものを創ることを決して忘れてはいけない。